明確なエビデンスの認められない日本のマンモグラフィ乳がん検診
第83回日本放射線学会総会(パシフィコ横浜,2024)乳がんシンポジウムより抜粋
日本人の乳がん罹患率について,約45年前の1980年のデータと2017年のデータとを比較すると,25歳から35歳までの若い年齢層でも約2倍の増加が認められ,35歳以上ではさらに増加がみられます。40歳以上になると約5倍という大幅な増加が認められます。これは,今日2024年の時点でも増加の傾向が続いております。
乳がんの死亡率は,英国,カナダ,米国,オーストラリアなどの欧米諸国では,1990年頃から明らかな減少に転じていますが,日本では1980年頃より徐々に増加がみられており,減少または横ばいになった年度はありません。
日本では,2000年度よりマンモグラフィによる乳がん検診が行われておりますが,検診を始めてからも乳がんの死亡率はまったく抑えられていません。日本の厚生労働省は,マンモグラフィ乳がん検診は,乳がん死亡率を減少させるエビデンスがあるとHPなどで強調しておりますが,その根拠となるデータは日本国内のデータではなく,欧米の論文から引用したものなのです。これは,多くの乳がん研究者の間では周知の事実となっております。遺憾ながら今日に至るまで,日本人女性にマンモグラフィ乳がん検診が推奨されるというEBM(evidence-based medicine)に基づいたデータは示されておりません。
米国では,1975年から2019年までの43年間に乳がん死亡率は約58%の減少がみられました。その要因は,25%がマンモグラフィ検診であり,75%は抗がん剤などの乳がん治療の進歩によるものでした。
日本人女性は,公的健康保険により米国人女性よりも極めて軽い自己負担で米国人女性と同等またはそれ以上の治療を受けられる恵まれた環境にあります。それにも関わらず,乳がん死亡率が増加しているのは,マンモグラフィ乳がん検診の有益性や効果が得られないからであると考えます。
乳がん検診において死亡率減少効果をあげるためには,感度が70%以上の検査を行うことと,70%以上の受診率が必要ですが,日本ではこれらがともに達成されておりません。感度については,日本で行われたマンモグラフィと超音波検査の併用による乳がん検診のランダム化比較試験であるJ-STARTにて,40-49歳女性におけるマンモグラフィ検査のみの感度は47%に過ぎなかったことが示されています。また,乳がん検診の受診率については,米国76.5%(2019年), 英国74.2%(2019年), フランス70.0%(2019年), 韓国65.9%(2020年), ドイツ65.7%(2019年), オーストラリア49.5%(2020年)であるのに対して,日本では44.6%(2022年は47.0%)と欧米諸国よりもかなり低い値にとどまっています。
40歳以上の日本女性の約40%は高濃度乳房であり,オーストラリア女性と比較すると約15倍という非常に高い割合です。これは,マンモグラフィの感度を低下させる大きな原因になっております。すなわち,マンモグラフィのみによる乳がん検診は日本人女性には推奨されないと言えます。
Bakerら(New England Journal of Medicine, 2019)によれば,マンモグラフィ乳がん検診に超音波検査を併用すると,乳がんの検出率はマンモグラフィ単独よりも1000につき4.1人増加したのに対して,マンモグラフィにMRIを併用した場合は1000人につき14.6人の増加が認められ,超音波検査よりもMRIを併用した方がはるかに優れた成績が得られたと報告しました。また,同じ論文では,検診と検診の間に検出されて,直近の検診で見つけられなかった乳がんが,MRIをおこなわなかったグループでは1000につき5.1人でしたが,MRIをおこなったグループでは1000人につき0.8人と非常に少なく,このことからもMRIの感度の高さが示されたと論評しています。